
ハイポニカ601「果菜ちゃん」でミニトマトを室内水耕栽培した記録【東京マンション】
2025年の夏から翌年の冬にかけて、東京のマンションの一室で、ホームハイポニカ601「果菜ちゃん」というキットを使ってミニトマトを水耕栽培した。土をいっさい使わず、水と液体肥料だけで育てる方式だ。窓際に置いた装置に苗を1本だけ植えたところ、レースカーテンに沿って2メートルをゆうに超える高さまで茂り、秋から真冬にかけてだいたい300個ほどの実がとれた。 味は市販のミニトマトと変わらずしっかりしていて、水っぽさもない。室内なので虫が寄らず、トマト最大の敵であるサビダニの被害も出ず、農薬を一度も使わずに済んだ。栽培を終えたのは翌年の1月、真冬でも実はついていたが、2月に小田原へ引っ越すことになり、そこで区切りをつけた。約5か月の記録を、写真をたどりながら残しておく。 育てるのに使ったもの 装置は協和ハイポニカのホームハイポニカ601「果菜ちゃん」 。液肥槽と栽培槽が上下2層になっていて、下の槽にためた液肥水をポンプで汲み上げ、上から滝のように落として循環させる仕組みだ。この「上から落とす」構造のおかげで水に空気が程よく混ざり、根全体に酸素と養分がムラなく回る。あとで触れるが、この点が育ちの良さに効いていたと思う。 肥料は専用のハイポニカ液体肥料 A・Bセット を使った。A液とB液をそれぞれ水で500倍に薄めて使うもので、原液のまま混ぜると沈殿してしまうため、必ず水に別々に溶かす。液肥の濃さの管理にはAPERA EC20 というペン型のECメーター を用意した。ECというのは水にどれだけ肥料分が溶けているかを電気の通りやすさで測る指標で、単位はmS/cm(ミリジーメンス毎センチ)。水耕栽培では、このEC値が肥料の濃さの目安になる。 組み立てと初期設定 届いたキットを窓際で組み立てた。部品はシンプルで、栽培槽、液肥槽、循環ポンプ、給液吐出部、栽培鉢とがく型カバー、培地といった構成になっている。 取扱説明書によると、公称の液肥容量は12リットル。最初に6リットルを入れて循環を確認し、そのあとさらに6リットルを足す手順になっている。ウキの黄色い部分まで水位が下がったら補給の合図で、赤まで下がると危険水位だ。循環ポンプは栽培中ずっと動かすのが基本とされている。メーカーは日光が十分に当たる屋外での栽培を勧めているので、今回のように室内の窓際で育てるのは本来の想定とは少し違う使い方になる。そのぶん、都会の室内でどこまで育つのかという実験でもあった。 室内の栽培環境 置き場所は南向きの部屋の窓際。都内のマンションだが前をビルにさえぎられておらず、日当たりはまあまあある。とはいえ朝日は差し込まず西日も少なめで、南からの直射が入る時間はそれほど長くない。屋外でしっかり日を浴びせる栽培と比べると、日照は明らかに劣る条件だ。育成ライトの類は使っていない。 エアコンは普段どおりよく使った。夏はつけっぱなし、冬は暖房も入れる。ただし温度管理といっても人が快適に過ごすために使っただけで、トマトのために調整したわけではない。植えた時期はやや遅めだったが、種袋にあるとおり秋に実る品種だったので、季節はうまくかみ合った。そして室内ならではの利点として、虫がまったく寄ってこなかった。この一点が最後まで効いてくる。 写真でたどる栽培記録 種は「秋どりミニトマト 甘美」を使った。日付ははっきり覚えていないので、以下は写真のファイルに残っていた撮影日を頼りにしている。 いきなり装置に種をまくのではなく、まず別の容器でスポンジに種を置き、水を含ませて発芽させた。スポンジは601に付属していたもので、100円ショップのスポンジでも代わりになる程度のものだ。何粒かまいて、その中でいちばん元気に伸びた1本だけを選び、葉が開いたところで栽培槽へ移した。大きなキットに対して、植えた苗はたった1本である。 定植から2週間ほどで、ひょろりとした苗がしっかりした株に育ってきた。 9月半ばには最初の花が咲いた。 草丈が伸びてきたので、キットに付属する2段の支柱支持枠を取り付けた。もっとも、この枠は早々に用をなさなくなる。あとで書くように、株はこの枠をはるかに超えて茂っていった。 10月に入ると小さな青い実がつき始めた。 その青い実が、みるみる房になって増えていく。 11月に入ってようやく最初の実が赤く色づいた。ここまでくれば、あとは次々に熟していく。 11月末、まとまった量をざるいっぱいに収穫できた。ここから真冬にかけて、収穫が途切れなく続くことになる。 液肥とECの管理 肥料とECの管理は、正直なところかなり適当だった。最初のうちは取扱説明書を見ながら合わせ、あとは基本的にメーターの表示を見て決めていた。苗がまだ小さいうちは薄めに、株が育つにつれて液肥を足して濃くしていく、という大まかな方針だけを守った。管理はpHではなくECで見ていたが、途中からは測るのが面倒になってやめてしまい、水を足して薄まったかな、という感覚で継ぎ足していた。 参考までに、計測した折の表示を残しておく。組み立て直後の8月20日はおよそ1.5mS/cm。 実がたくさんついた11月19日にはおよそ3.3mS/cmまで上がっていた。 ただしこれらは、その瞬間に画面に出ていた数字にすぎない。直前に水を足したのか肥料を足したのかで値は動くので、「この濃度を保っていた」という意味の数字ではない。目標として一定に保ち続けていたわけではないことは、念のため断っておきたい。 ミニトマトの水耕栽培でどのくらいのEC値が目安になるのか、家庭向けの一般的な推奨レンジを調べてグラフにしてみた。数値の絶対値は品種や気温、栽培方式で変わるので、あくまでざっくりした指針として見てほしい。 苗のうちは薄く、大きくなるにつれて濃く、というのが基本線だ。ここで注意したいのが肥料の窒素分の扱いである。窒素は葉や茎を育てる成分で、これが多いと植物は葉や茎を茂らせる方向(栄養成長)に力を注ぐ。ところが実をつけ始める頃に窒素を与えすぎると、株が栄養成長に傾いたまま、花や実をつける方向(生殖成長)へなかなか切り替わらない。結果として葉ばかりがうっそうと茂って実つきが悪くなる。園芸ではこれを「つるぼけ(樹ぼけ)」と呼ぶ。だから実がつく段になったら肥料は少しずつにとどめ、葉の茂り具合を見ながら加減するのがよいとされている。今回は序盤を薄めにしていたのが結果的に功を奏したのかもしれない。 肥料の足し方にはこの装置ならではのコツがあった。水を補給すると液肥が薄まるので、そのつど液肥を直接タンクへ入れてやる。循環ポンプが水を回してくれるので、あらかじめ混ぜておかなくても勝手にいきわたる。この手軽さは2層循環式のありがたいところだった。 根の張り具合も、この循環のおかげか終始よかった。11月にタンクの中をのぞくと、白く元気な根がびっしり広がっていた。 以前、バケツにエアポンプで空気を送り込む自作の水耕装置を試したことがあるが、そのときは根がここまで生き生きとはしなかった。日当たりの差もあったかもしれないが、上から水を落として空気を巻き込みながら循環させる601の作りは、根に酸素を届けるという点でよくできていると感じた。 水の減り方は生育の段階で大きく変わった。実がなるまでは使う量が少なく、水を足すのは週に1回、多くて2〜3日に1回くらいで足りた。ところが実がついて株が大きくなると、水の減りが一気に激しくなる。葉が増えて蒸散が盛んになるうえ、エアコンで室内が乾くせいもあるだろう。逆にいえば冬場は、装置が加湿器のように部屋をほどよく潤してくれる感覚もあった。 受粉・誘引・剪定 人工授粉はほとんどしなかった。最初に少し花を揺らしてみたものの、どうやら必要なさそうだとすぐに分かった。というのも、株はレースカーテンの内側でちょうど葉のカーテンのように茂り、人がカーテンを開け閉めするたびに葉も花も揺れる。それだけで自然に受粉していたらしく、受粉で苦労した覚えはまるでない。 脇芽はちょこちょこ摘んだが、何本仕立てにするといった管理はいいかげんなものだった。伸びすぎたら先端を切る。切るとまた脇芽が出てくるので、それをたまに摘む。これはふつうのミニトマト栽培と変わらない。ただ、とにかく背が高くなった。身長を軽く超え、窓一面に張り付いて、2メートルは平気で超えていく。ここまで来ると手が届かず管理しきれないので、先端を止めた。 支えには、カーテンレールに紐をかけてつるを吊り上げ、茎を留めていった。付属の支柱支持枠は、この茂りように対してはまるで足りなかった。水耕栽培でここまで大きくなるのかと、正直なところ面食らった。下の写真は11月下旬に撮ったもので、定植からおよそ3か月、日数にして97日ほど。種をまいた日から数えても110日ほどで、たった1本の苗がこれだけの株に育った。 収穫と味 とにかくよくとれた。写真のとおり鈴なりで、途中まではきちんと数えていたが、100個を超えたあたりで数えるのがばかばかしくなってやめてしまった。終盤は毎日いくつか摘む状態で、ざっと見積もって300個ほどにはなったと思う。食べきれずに悪くしてしまったものもあったほどで、知り合いに配りたいくらいの豊作だった。 真冬の1月に入っても収穫は続いた。 ...



