ECMを使えば、数百円のパーツで本格的なピンマイクを自作できます。 この記事では、WM-61A相当品を中心に、基本回路の組み方からスマホ・PC接続、風切り音対策のウインドジャマー、ファンタム電源による高音質化まで、数年にわたる試行錯誤をもとに解説します。
自作マイクというと難しそうに見えるかもしれませんが、ECMを使えばかなり小さく作れますし、素朴でナチュラルな音を狙いやすい のが面白いところです。特に胸元に付けるピンマイク用途では、自作ならではの自由度があります。
一方で、無理に自作をおすすめしたいわけではありません。思いついたから試してみた、という側面も強く、完成度だけでいえば製品に敵わない部分もあります。ただ、構造を理解しながら試せることと自分の欲しい形に寄せられることは自作ならではの魅力です。
3行でわかるこの記事
- ✅ ECMの基本回路から、スマホ・PC用ピンマイクの作り方がわかる
- ✅ ウインドジャマーの自作方法と、周波数特性の実験データを紹介
- ✅ ファンタム電源(+48V)でECMを高音質化する回路図あり
ECMの基本回路と使い方
はじめに、この記事で使うものを紹介します。
ECMとは
ECMとは、エレクトレットコンデンサマイクの略称です。2枚の電極板の片方が振動することで音を電気信号として取り出す仕組みで、コンデンサマイクの一種です。
通常のコンデンサマイクと異なるのは、エレクトレットというあらかじめ電気を帯びた素子が使われていること。外部から電圧をかけて誘電分極を起こす必要がないため、小型化が可能です。スマホやイヤホンをはじめ、小型機器のマイクとして広く使われています。
なお、ECMには通常FETが内蔵されているため、動作には外部電源が必要です。
ECMカプセルの構造
ECMカプセルの内部構造は、一般的に次のようになっています。

FETの役割
ECMのアルミカプセルの中には、マイクユニットだけでなくFETが内蔵されています。FETはマイクユニットが発生する超微弱な電流を増幅する役割を持ちます。つまり、信号の出力インピーダンスを低くし、外来ノイズの影響を受けにくくする働きをします。
ECMカプセル
今回使用したECMは、秋月電子通商で購入した WM-61A相当品 です。
WM-61Aとは
WM-61Aとは、かつてパナソニックが製造していたECMで、音質に定評があることで知られています。すでに廃盤となっているため、今回使うのはあくまでWM-61A相当品です。基本的にECMの使い方はどれも同じなので、他のECMでもこの記事のやり方が参考になります。
WM-61A相当品は通常のECMよりも小型ですが、その大きさからは想像できないほどパワフルな音質です。さらに安くて入手しやすく、作例も多いのが大きな利点で、自作マイクを試したい人にとって情報が多く追いかけやすいECMでもあります。
その他の電子部品
その他に、固定抵抗と電解コンデンサを使います。2.2kΩの抵抗があればベストです。コンデンサは22uF程度の電解コンデンサで構いません。
ECMの回路図例
実際にECMを使うには、次のような回路を組みます。

このような定数で設定しました。
| 名称 | 値 |
|---|---|
| +Vs | 1.2V |
| RL | 3.3k |
| C | 22μF |
ECMの供給電圧
ECMの内部にはFETが入っているため、外部電源を供給する必要があります。今回使うECMは1.1〜10Vの電圧範囲で動作でき、標準電圧は2.0Vです。つまり、電池一本でも動かせます。
ECMの極性
ECMの端子には、プラスとマイナスの極性があります。マイナスはアルミカプセルと同じGNDに落とされています。どちらがプラスかマイナスかわからなくなった場合は、テスターでアルミカプセルと端子を導通させてみて、ショートするほうがマイナス端子と判断しましょう。
負荷抵抗RL
ECMへ電源供給する際のRLの負荷抵抗は、2.2kΩが標準です。手持ちの抵抗の都合上3.3kΩとしましたが問題ありません。実際にいろいろな抵抗を試してきて、1kΩ〜10kΩの範囲で使用できました。抵抗値を小さくすれば出力が大きくなり、大きくすると出力は小さくなります。
カップリングコンデンサC
コンデンサCは、いわゆるカップリングコンデンサです。カップリングコンデンサの役割は、信号のような交流ACと、供給電圧のような直流DC成分を分けることにあります。
カップリングコンデンサの値を決めるには、その先につなぐ機材の入力インピーダンスを考える必要があります。マイク入力などにつなぐ場合、入力インピーダンスを600Ω以上と考えればよいでしょう。入力インピーダンスを600Ωと想定した場合、22μFではカットオフ周波数は12Hzになります。
カットオフ周波数とは
カットオフ周波数とは、ローパスフィルタやハイパスフィルタにおいて「その周波数以下または以上がどんどん通りにくくなる」境界の周波数です。正確には、一次フィルタで-6dB下がった地点の周波数を「カットオフ周波数」と呼びます。
一次RCフィルタ回路におけるカットオフ周波数は、次の式で計算できます。
$$ fc = \frac{1}{2πCR} $$
ブレッドボードで扱いやすくするために、ECMをモジュール化しました。少ない部品の回路でも、モジュール化しておくと後々使い回しが効いて便利です。

音質は?
WM-61A相当品の音質の感想です。音は落ち着いた音色で、パワフルな印象があります。いろいろなECMと比較してみても、WM-61A系は特徴的な感じがします。
自作しやすさと入手性のバランスで見ると、WM-61A相当品はかなり優秀です。一方で、音そのものにより強くこだわるなら、後半で紹介する フォーリーフのECM のほうが私は好みです。
ECMを本格的に高音質で使いたい場合は、ぜひファンタム電源化してみましょう。
発展
このECMモジュールを使って、Raspberry Piで音センサにして遊んでみました。ECMをイヤホンに埋め込んで、ASMRのバイノーラルマイクを作ってみても面白そうです。
▼ 下記動画ではこの記事で紹介するECMを使って、Raspberry Piでサウンドレベルインジケーターを実現しました!
パソコン用・3極端子ECMピンマイクの自作方法
パソコンで使える3極端子のECMピンマイクの作り方を紹介します。紹介するマイクの特徴は次のとおりです。
- ECMをプラグインパワーで駆動
- 3極端子マイクの専用アダプタが必要
- LINEやSkypeなどのビデオ通話、Zoom会議などにも使える
パソコンやスマホに採用されている3.5mmイヤホンジャックの規格は、通常4極タイプが主流です。4極タイプはステレオ出力とマイク入力、それにGNDのために配線されています。スマホではCTIA規格とOMTP規格が混在しており、マイクとGND端子が逆になっているものがあります。iPhoneをはじめとするスマートフォンのほとんどはCTIA規格ですが、一部の機種ではOMTP規格のため注意が必要です。
ヘッドホン・マイク分岐ケーブル
3極端子のマイク制作にあたって、ヘッドホン・マイク分岐ケーブルが必要になります。イヤホンジャックのあるスマホや、MacBookなどのノートパソコンで使えます。イヤホンジャックのないiPhoneでも、Lightningイヤホン変換アダプタを使えば利用できます。
使用するECMカプセル
今回は 音質に定評のあるWM-61A相当品 を使用しました。秋月電子通商で購入できます。ECMの詳細や基本回路については、上の「ECMの基本回路と使い方」を参照してください。
その他の材料
3.5mmの3極端子オス、2芯ケーブル、銅箔、熱収縮チューブなどを使用しました。
3極端子のマイクって?
マイク信号なのに3極、と不思議に思われるかもしれません。3極タイプのマイクはスマホやパソコンのイヤホンジャックへ直接挿すことはできません。必ずスピーカーとマイクを分岐するアダプタが必要です。
3極端子のマイクジャックは、次のような構成になっています。
| T (Tip) | R (Ring) | S (Sleeve) |
|---|---|---|
| MIC | MIC | GND |

MIC端子が2つあってステレオ?と思いましたが違います。2つのMIC端子はアダプタ内でショートしており、同じ信号を意味します。そのため、2極のモノラル端子だと構造上、MICとGNDがショートしてしまいます。ですから自作する場合は、3極のステレオミニジャックが必要です。
ECM選び
ECMカプセルには様々な種類があります。WM-61Aはかつてパナソニックが製造していたECMカプセルで、音質に定評がありました。しかし製造中止となり、市場に出回りにくくなっています。
秋月電子通商でWM-61A相当品が販売されていますので、それを使いました。他のECMと比べてパワフルな印象があり、直径が5mm程度と他のECMより約半分ほどの小ささです。一般的なECMであればこの記事の内容で動作しますので、ECMを変えて音質の違いを確かめてみるのも面白いです。
外部マイクとプラグインパワー
スマホやパソコンで外部マイクとして認識させるには、MICとGNDの間に数kΩ(1kΩ〜8kΩ)程度の負荷をかけると認識されます。詳しくはこちらが参考になります。
MIC端子とGNDの間に6.8kΩの抵抗をつないだところ、手持ちのスマホで外部マイクとして認識されました。このとき6.8kΩの両端に2V程度の電圧が掛かっており、これがプラグインパワーです。外部マイクに電源を供給できる便利な仕組みで、これを利用すれば外部電源なしでECMを使えます。
下図は自作マイクの回路図例です。6.8kΩの抵抗はなくても動作します。2.2kΩの抵抗はECMへの電源供給用で、値を変えると出力の大きさも変わります。音量が大きすぎると感じたときは、2.2kΩを少し大きくしてみてください。

3極の自作マイクの完成
6.8kΩを省略し、2.2kΩの抵抗を1kΩに変更して、3極端子の自作マイクを作りました。ヘッドホンを繋いで音声通話が可能です。

気になる音質は、こちらの動画でご確認いただけます。なお、動画の音声は4極端子版ですが、ここで作ったマイクとほとんど違いはありません。
スマホの内蔵マイクは環境音を拾いやすく、高音がシャリシャリして少しうるさい印象でした。スマホのボディの共振のためか、水中や金属箱の中にいるような音質が気になることもあります。一方、自作マイクは非常にフラットな音質で、プロっぽい録音感があります。
スマホ内蔵マイクは機種にもよりますが、全体にかなり加工された音に聞こえることがあります。迫力を強調する方向の味付けが乗りやすく、特にAndroid端末ではその印象が強いこともあります。構造的にもスマホ本体の影響を受けやすく、箱鳴りのようなクセは避けにくいと思います。
その点、ECMの自作ピンマイクは 素朴でナチュラルな音を狙いやすい のが良さです。しかも小さく作れるので、胸元に付けるピンマイク用途との相性も良いです。
自作に自信がない方は、素直に製品のマイクを選びましょう。低価格でも完成度の高い製品が買えるので、おすすめです。
音質をグレードアップするには
ここまで紹介したプラグインパワーによる方法は、 ECMの性能を十分に発揮できません。プラグインパワーで供給される電圧が低すぎる からです。ECMの性能をフル発揮させるなら、ぜひファンタム電源で動かしてみましょう。
また、ピンマイクを屋外で使う場合は風切り音のノイズ対策も必要です。ウインドジャマーというモフモフをマイクに被せることで、驚くほど風のノイズを除去できます。
スマホ用ECMピンマイクの自作方法【4極CTIA規格】
YouTube動画撮影やライブ配信などで使える、スマホ用のピンマイク(ラベリアマイク)を制作しました。ECMをスマホからの電源供給で動かすプラグインパワー方式で、端子はiPhoneなどで普及しているCTIA規格の4極端子です。
- 専用アダプタが不要
- プラグインパワーで駆動
- CTIA規格の4極端子
- イヤホンは同時に使えない
使用するECMカプセル
今回もWM-61A相当品を使用します(→ 詳細は「ECMの基本回路と使い方」参照)。
その他の材料
3.5mmの4極端子オス、2芯ケーブル、銅箔、熱収縮チューブなどを使用しました。イヤホンジャックがないiPhoneでは、Lightningからイヤホンジャックへのアダプタが必要です。
CTIA規格とOMTP規格
スマホの4極イヤホンプラグには、CTIA規格とOMTP規格が混在しています。両者ではマイク信号とGNDの配線が異なります。iPhoneをはじめほとんどのスマホはCTIA規格なので、ここでもCTIA規格で制作しました。
| 規格 | T | R | R | S |
|---|---|---|---|---|
| CTIA | L | R | GND | MIC |
| OMTP | L | R | MIC | GND |

回路図
今回制作した自作ピンマイクの回路図です。ECMと4極端子、それに抵抗1つでプラグインパワーの外部マイクが実現できます。

ECMの種類によって感度が違うため、実際に作ると音量にムラがあります。WM-61A相当品の場合、抵抗値を2.2kΩにするとちょうど使いやすい音量でした。抵抗値は2kΩ〜9kΩの範囲で調整できますが、範囲外になるとスマホ側で外部マイクと認識しないので注意してください。
制作の様子
ECM周りを銅箔でシールドしてノイズ対策を施しています。接着剤はできるだけ使わず、熱収縮チューブを活用して固定すると良いです。



屋外で収録する際に風が吹くと、ボーボーといった風切り音が気になります。そういった場合は、ピンマイクにモフモフしたウインドジャマーを被せることで風のノイズを抑えることができます。ウインドジャマーは、ユザワヤなどで売られているフェイクファーを使って自作もできます。
風切り音対策|ウインドジャマーの自作と効果検証
▼ 自作のウインドジャマーの威力をご覧ください。
ウインドジャマーとは
ウインドジャマーとは、マイクの風切り音を軽減するために被せる、毛皮のようなカバーのことです。野外録音では定番のアイテムです。
風切り音とは
風切り音とは、野外撮影で誰もが悩まされる「ボーーー」「ゴーーー」といった風のノイズです。iPhoneでも、ピンマイクでも、ガンマイクでも、対策なしでは容赦なく風のノイズが入ってきます。映像がよくても音声が悪いと、せっかくの作品が台無しになってしまいます。
素材
ウインドジャマーの素材には毛むくじゃらのフェイクファーを使います。ユザワヤで見つけた「エコファーボール」がピンマイクにちょうど良いサイズでした。

エコファーボールは100円程度で、色も選べます。カラフルなウインドジャマーを作ることもできます。
加工方法
エコファーボールの真ん中にはスポンジが入っています。ハサミで切り込みを入れてスポンジを取り除き、適当なサイズにカットして丸くなるように縫い直せばウインドジャマーの完成です。

見た目を気にしないのであればこれで十分ですが、もっとカッコよくしたい場合は素直に製品を購入しましょう(笑)COMICAのウインドジャマーは安いわりに質が良くておすすめです。
フェイクファー以外の素材は?
フェルトや綿、ストッキング、スポンジなども試しましたが、どれも毛皮ほどの風防効果はありませんでした。不思議なもので、風を除けるには動物の毛に似た構造が大切なようです。
マイクの選び方
声の録音
「声」の録音にはピンマイク(ラベリアマイク)が向いています。ウインドジャマーを簡単に取り付けられますし、口とマイクの距離が近いほど音質もクリアになります。
環境音の録音
環境音の録音なら指向性マイクが使いやすいです。超指向性のガンマイクは、狙った対象を集音しつつ周囲のノイズをキャンセルできます。2つのマイクの角度を変えれば、ステレオ収録や前後2人の声の集音といった使い方もできます。
ウインドジャマー「あり」「なし」の差
自作ウインドジャマーをマイクに装着して扇風機で風を当ててみました。ヘッドホンやイヤホンで視聴すると、風切り音除去の効果の大きさを実感できます。スポンジでは風切り音を完全には除去できませんが、ウインドジャマーでは見事になくなります。かなりの強風でもノイズの除去ができるため、効果は絶大です。
ウインドジャマーの名前の由来
Wikipedia によれば、ウインドジャマー(Windjammer)はなんと貨物用帆船の名前です。19世紀後半から20世紀前半ごろまで使われていた帆船で、マストで風を受けて進むものです。

蒸気船の安定度には敵わないものの、1950年代まで商業的貨物輸送に使われていたそうです。マイクの風切り音対策に使われるウインドジャマーも、この帆船のように風を吸収するイメージで命名されたのでしょうか。
ウインドジャマーの周波数特性
ここからは音響に関するマニアックな話題です。風防による周波数特性の違いを調べました。スピーカーからホワイトノイズを流し、次の3パターンで録音して解析します。
- マイクに何もつけない場合
- スポンジのウインドスクリーンをつけた場合
- ウインドジャマーをつけた場合
この実験を、風がある時とない時で繰り返しました。
実験結果:風がない時

スポンジをつけた時とつけていない時では、周波数特性にほとんど違いがありません。しかしウインドジャマーを付けると、高音域が減衰して右肩下がりのグラフになります。つまり、ウインドジャマーを通すと若干こもった音になります。また、100Hz以下の低音域が盛り上がるのも気になります。
実験結果:風がある時

フィルターなしの場合、1kHz以下の低音域が山のように盛り上がりました。風切り音のノイズ成分のほとんどは低周波というわけです。
スポンジをつけると、フィルターなしの場合は最大音圧が0dBあたりまで膨らんでいるのに対し、-7dB程度に抑えられました。
ウインドジャマーをつけると、**なんとピークが-18dBまで抑えられました。**圧倒的な風切り音除去効果です。
ローカットフィルタの活用
マイクの録音時にローカットフィルタ(ハイパスフィルタ)を通すと、さらに風切り音を減らせます。ミキサー卓やPA用マイクには大抵ローカットフィルタが付いているので活用しましょう。
▼ ZOOMのハンディレコーダにはローカットフィルタ機能が装備されています。単3電池一本で約10時間の連続録音が可能で、野外での集音に便利です。私はZOOM H5ハンディレコーダを使っています。
スマホなどでローカットフィルタ機能がない場合は、収録後にDTMなどの音楽編集ソフトでローカットフィルタをかける方法で対処します。50Hz〜100Hzの間でカットオフ周波数を決めて、-6dB/octまたは-12dB/octでカットすれば、自然な形で低音域の雑音を除去できます。
なお、その後の実験で、ユザワヤのエコファーボールより製品のウインドジャマーのほうが高音域の劣化を防げることがわかりました(その分、風切り音は若干拾ってしまいますが)。現在はCOMICAのウインドジャマーを使用しています。
ECMをファンタム電源(+48V)で高音質化する方法
ECMは1つ数十円から数百円程度で手に入る高音質なコンデンサマイクです。小型なため、ラベリアマイク(ピンマイク)やモバイル端末でよく使われています。
ECMを使うには外部から電圧を供給します。ECMの両端にかかる電圧が1V〜10V程度になるように+VsとRLを設計します。

低電圧でも駆動できるため、スマホのイヤホンジャックから供給されるプラグインパワー(約2V)でも動かせます。
プラグインパワーとファンタム電源の音質比較
プラグインパワーでのマイク制作は、使うのも作るのも簡単で便利です。しかし、プラグインパワーの電圧はわずか2V程度。**低い電源電圧では、ECMの性能をフルで発揮できません。**つまり、プラグインパワー駆動のECMは音が悪いというのが、経験上の認識です。
ECMの耐圧に注意しながら、ギリギリの10V程度でECMを駆動してみてください。高域が立ち上がり、驚くほどクリアなサウンドになります。実際に音質比較した動画をぜひご覧ください。
以下では、ECMを+48Vのファンタム電源で駆動させる方法を紹介します。こちらの記事を大いに参考にさせていただきました。
ECMのファンタム電源供給回路
ECMをファンタム電源で駆動させるには、次のような回路で実現できます。ただし、この回路はアンバランス出力であることに注意してください。

「アンバランス出力だとノイズを拾いやすいのでは?」と思うかもしれませんが、シールド対策をしっかり行えばほとんど問題ありません。特にECMカプセル部分のシールド対策が重要です。シールド対策のやり方は後半で解説します。
そもそも、シールド対策が不十分だといくらバランス出力してもノイズを拾ってしまいます。また、今回紹介する回路図は部品数がとても少なく、コンパクトさとシンプルさにおいてこれ以上の回路はないでしょう。どうしてもバランス出力のマイクが必要な方は、参考になりそうな回路を記事の最後で紹介します。
図❶は「正極側が正相となるエレクトレットマイク」のための回路図です。一方で「バックエレクトレット方式のECMは負極側が正相」です。バックエレクトレットECMを使う場合は、次の回路図を参考にしてください。
バックエレクトレット型ECMのファンタム電源供給回路

図❶も図❷もほぼ同じ回路図ですが、HOTとCOLDの位置が異なります。この位相の問題はとても重要で、複数マイクを使ったときに位相が合っていないと大きなトラブルの原因になります。使用するECMの位相をデータシートなどでよく確認してください。
回路図の解説
回路図のRの値は、ECM端子間が10V程度になるように設定します。WM-61A相当品の場合、47kΩの抵抗を使うと約10Vに設定できます。カップリングコンデンサは、出力先の入力インピーダンスが600Ωまでを考えて10uFに設定しました。このときカットオフ周波数は26.5Hzになります。ファンタム電源は48Vなので、50V以上の耐圧のコンデンサを使うようにしてください。
フォーリーフのEB-H600を使う場合は、バックエレクトレット型のECMなので図❷の回路図で組みます。ECM端子間が10V程度になるようにRを設定すると、150kΩほどの抵抗が必要になります。
フォーリーフのECMは秋月電子通商で購入できます。

EB-H600はバックエレクトレット型ですが、EC-H600は通常のエレクトレット型なので注意してください。詳しくはフォーリーフのサイトでデータシートを確認してください。
位相の問題と抵抗Rを適切に設定すれば、他のECMでも同じように制作できます。
音響機材について
本記事で制作するマイクを使うには、ファンタム電源を供給できる音響機材が必要です。私はZOOM H5というハンディレコーダを使っています。自転車配信の際に自作のピンマイクを使うため、H5を自転車のトップチューブにマウントしています。台座は3Dプリンタで自作し、スポンジを中間にはさんで振動吸収対策をしています。




ZOOM H5は2chのXLRコネクタを装備しており、ファンタム電源供給が可能です。ローカットフィルタやリミッター、コンプレッサーといった機能も備わっています。オーディオインターフェースとしても使えるので、スマートフォンに接続してライブ配信機材としてもおすすめです。
ファンタム供給ECMピンマイクの作り方
EB-H600を使ってファンタム供給できるECMピンマイクを作ります。
マイクケーブルとECMをはんだ付けし、φ2mmの熱収縮チューブで絶縁します。

マイクケーブルは、秋葉原のTOMOCA電気で購入したモガミのφ約3mmの2芯ケーブルを使用しました。ほどよい柔らかさと耐久性を備えていて、ピンマイクにぴったりです。
次に、ECMカプセルを絶縁するためにφ7mmの熱収縮チューブをかぶせます。ECMの負極とアルミカプセルが導通しているため、シールド用の銅箔を被せるには絶縁が必要です。

銅箔でマイクを覆い、マイクケーブルのシールドの撚り線と接触させます。

このようにECMの周りをGND電位に落とし、シールドします。

さらにφ7mmの熱収縮チューブで銅箔が動かないようにします。

XLRコネクタの加工
回路図の通り、抵抗とコンデンサを間違えないように配線しましょう。

マイクケーブルが細いため、スーパーXを根本に充填して固定しました。根本にも熱収縮チューブを少し巻いて、マイクの色と合わせて識別しやすくしています。

EB-H600を使った2つのピンマイクが完成しました。

2つのマイクを使えば、LRのステレオ収録や、モノミックスで音量バランスを整えることもできます。左右の襟にそれぞれ付けて、自転車配信で活用しています。
【おまけ】アンバランス・バランス変換ボックス
山水のST-71トランスを使って、バランス出力のピンマイクも作りました。しかし変換ボックスが少し大きく、自転車配信では使いづらくお蔵入りになってしまいました。マイクカプセル部分のシールドをしっかり施せば、アンバランス回路でも滅多なノイズを拾うことはありませんが、せっかく作ったので紹介します。
バックエレクトレット型のEB-H600用に設計したものです。通常のECMを使う場合はトランスの3番と5番を逆にしてください。

RLの値はECMの両端電圧が10V程度になるように設計してください。600Ωトランスの高負荷をドライブするために、5532のようなオペアンプが必要です。
個人的にはオペアンプに2114がおすすめです。5532よりもクリアな音質で、MUSE01と引けを取らず、値段も安いです。

▼ ケースのモデルはThingiverseで公開しています。
100均ピンマイクの改造方法|Can☆Doを音量アップ・高音質化
Can☆Doのピンマイクを音量アップ・高音質化できるか改造に挑戦しました。WM-61A相当品で作ったピンマイクとの音質比較もあります。
100円で手に入るピンマイク——Can☆Doさんには感謝しかありません。しかし実際にiPhoneでアダプタ経由で使ってみると、音量が小さすぎて使い物になりませんでした。
数年間の自作経験を活かして、Can☆Doのピンマイクを解体し、自分なりのピンマイクに改造(モディファイ)しました。改造前と改造後の音質比較動画をYouTubeで公開していますので、ぜひご覧ください。WM-61A相当品の自作ピンマイクとの音質比較もあります。
Can☆Doのピンマイクの分解
4極端子で、スマホの外部マイクとして認識できるタイプです。

ウインドスクリーンを取るとこんな感じです。

分解は比較的簡単です。ECMはWM-61A相当品より少し細長く、指向性を出しそうな筐体です。ただし網メッシュは金属ではないのでシールド効果はなく、このままだとハムノイズに弱いです。

改造後の回路図
Can☆DoのECMカプセルだけを使い、マイクケーブルと4極端子は秋葉原で調達したものを使います。スマホのイヤホンジャックから電圧供給できるプラグインパワー方式ですが、CTIA規格なので一部のスマホでは外部マイクとして認識しない可能性があります。

改造の様子
抵抗はイヤホンジャック側に埋め込みます。CTIA規格ではスリーブがマイク信号になるので、間違えないように配線しましょう。

ECM周りは銅箔を使ったシールド対策を施しました。これでハムノイズはばっちり消えます。



改造後の音量・音質は?
音量はしっかりアップしました。プラグインパワーの場合、抵抗値を1kΩ〜9kΩの範囲で変えることで音量を調整できます。音質はWM-61Aと比べると高域が落ちて少し暗い印象ですが、落ち着いた音質と捉えることもできます。100円でここまで楽しめるのは十分です。100円ショップの電子製品のアイデアと進化には、毎回刺激を受けています。
関連アイテム
この記事で実際に使っている機材や近い部材です。自作マイクを試すときの参考になればと思います。