はじめに

この記事では、ギターやベースで使えるバッファーエフェクターの作り方をご紹介いたします。オペアンプ5532を使用します。5532の入力インピーダンスはそれほど高くないため、ギターやベースなどのハイインピーダンス出力を直接繋ぐことはできません。そのため、FETを前段に挟んで入力インピーダンスを高くする方法をご紹介してます。

いま見返すと、この記事の5532バッファーは 当時作った実験機・基板制作の記録 という位置づけが強いです。後に作った BUFFER!! V2.0 の実験ノート や、カップリングコンデンサをなくした BUFFER!! V3.2 へつながる前段階として読むと、設計の変化が分かりやすいと思います。

自作エフェクター全体の流れを見たい方は、まず 2020年頃に熱中して製作した自作エフェクター達 もあわせてどうぞ。バッファー回路だけをシンプルに試したい場合は、部品点数の少ない FET1石バッファー回路 の方が取り組みやすいです。

バッファー回路とは

検索でこの記事に辿りついた方には釈迦に説法ですが、バッファー回路とは何か簡単に解説します。

ハイインピーダンスなピックアップ出力

ギターやベースなどの ピックアップから出力される信号はとても弱い信号 です。電圧は1Vppほどあるのですが、電流があまりありません。誤解を恐れずに言えば、この 電流が少ない信号のことをハイインピーダンス信号 と言ってます。 ハイインピーダンスはノイズに弱い とよく言われますが、外部ノイズのほとんどは本来は微弱電流なのですが、ハイインピーダンスの信号も電流が弱いので混在した時にノイズの影響力が大きくなると言った理由から来てます。

バッファー回路は電流増幅器

そこで電圧(信号)の大きさを変えずに、電流だけを増幅してあげれば良くない?と思って考えだされたのがバッファー回路なんですね。ですから バッファーは電流増幅器 とも言えるでしょう。ちなみにバッファ(Buffer)は英語で緩衝器の意味です。電車同士の接続部分をBufferと言ったりします。

さて、音響機材の接続で当たり前のように行なっていることですが、 ローインピーダンス出力をハイインピーダンス入力へ繋ぐことは良いのですが、その逆はNG です。つまり、ハイインピーダンス出力をローインピーダンス入力の音響機材などへ直接繋ごうとすると、電流が十分取り出せないので音質劣化が起こります。具体的には低音がスカスカだったり、なんかぺこぺこしたしょぼい音だったり音量が小さいといった感じの状況が起こります。そんな経験をされた方は多いのではないでしょうか?

バッファーを介して音質クリアに

そこでバッファー回路の登場です。ハイインピーダンス出力の楽器を、 バッファーを通してローインピーダンス信号へ変換 してから音響機材へ繋ぐことで見違えるほどクリアでスッキリした音になります。そんなバッファとしての役割で最も有名なのが、DI(ダイレクトボックス)ではないでしょうか?録音卓で必ず使われるDIは、アンバランス信号をバランス信号へ変換する役割も担ってます。

現代のエフェクターのほとんどがバッファ内蔵

また現代のエフェクターのほとんどが、最初の入力段にハイインピーダンスを入力できるようなバッファー回路が設けられてます。逆に古いエフェクターではそれほど入力インピーダンスが高くなく、楽器によって音色変化が大きく違うなんてことがあります。以前作った Fuzz Face も入力インピーダンスが低くめなので、ギターやボリューム調整によって大きく音色が変わってしまいます。むしろそれが人気だったりしますでしょうか。そういったエフェクターに、通常のバッファー回路を挟んでしまうと今度は歪みすぎるといった事態になりますからなかなか難しい話です。

使うもの

バッファー回路を作るにあたって、使うものをご紹介いたします。

オペアンプ5532

デュアルオペアンプの5532を使用します。5532は古くからあるオペアンプですが、高音質なのに低価格で手に入りやすく、今でもさまざまな音響機材で使われてます。

その他

その他に必要な電子部品は後述の回路図をご覧ください。

オペアンプ5532を使ったバッファーエフェクターの製作

回路図

下図は、オペアンプ5532を使ったギターやベースで使えるバッファーエフェクターの回路図です。画像をクリックすると拡大できます。

オペアンプ5532を使ったギターバッファー回路図

入力インピーダンスは入力段の2つの1MΩの抵抗並列合成なので、 500kΩ になります。出力インピーダンスはオペアンプなので 100Ω以下 になるようです。

FETの役割

最初にも触れた通り、5532の入力インピーダンスはギターを直で受けれるほど高くはありません。数百キロΩ程度だそうです。4558やTL072ではギター信号も直接受けれるのですが、5532の場合はちょっと厳しいです。そのため、 前段のFETでハイインピーダンスを5532でも受け取れるようにローインピーダンス信号に変換 してあげます。ここのFETには2SK303や2SK30Aなどが使用できます。ただし、FETのピン端子はG、D、Sの並びが統一されてないので配線にご注意ください。

FETバッファー単体の動作や、入力インピーダンス・出力インピーダンスの測定については もっとも簡単なFET1石バッファー回路 でも詳しくまとめています。

ボルテージフォロワ

FETの次にありますオペアンプ回路がいわゆるバッファー回路になります。 増幅率は1倍 です。つまり音量を上げも下げもしません。 電流だけ増強 する回路です。この回路の形は一般的に ボルテージフォロワ と呼ばれてます。

カップリングコンデンサ

C1とC3は カップリングコンデンサ と呼ばれるもので信号の直流成分を除去する役割があります。ここで紹介している回路図は、オペアンプを単一電源で動かしているため、カップリングコンデンサが必ず必要になります。このことは次のバイアスの話で説明いたします。

この回路の入力インピーダンスを500kΩとすれば、C1の0.1μFで生成される カットオフ周波数は3.2Hz となりますから、ギター信号を受け取るには十分すぎるコンデンサ容量です。

ここで言うカットオフ周波数とは簡単に言いますと、低音がカットされてしまう周波数のことです。正確には-3dB音量が下がる点です。

また出力側のC3のコンデンサは、その後へ接続する機材の入力インピーダンスを考慮して容量を決定しなければなりません。一般的な録音機材などでは600Ω以上でしょうから、600Ωに合わせて10uFを選びました。その時の カットオフ周波数は26.6Hz となります。

後からコンデンサをいろいろ測定・比較してみると、容量値だけでなく、誤差や寄生容量の影響も無視できないことが分かってきました。コンデンサの容量を自分で測ってみたい場合は Arduinoでコンデンサの静電容量を測定する方法 が参考になります。

バイアス電源(仮想GND)回路

下側にあるもう1つのオペアンプは、安定したバイアス電位を作り出すためのものです。いわゆる 仮想GND と呼ばれてます。オペアンプで作ることにより、抵抗で分圧して作るものよりも安定した仮想GNDになります。 ただし、5532の入力インピーダンスは100kΩ以下にもなるそうですから、分圧抵抗の値を高くできません。4558や072などでは100kΩが使えましたが、ここでは6.8kΩとかなり低い値を取ってます。

基板の制作

銅箔をエッチングして基板を製作してみました。以前はレジストペンで蛇目基板を作っていたのですが、最近はKiCadでフットプリントを作って、レーザープリンタを使ったトナー転写で基板製作できるようになりました。ここではその様子をご紹介いたします。

※ちなみに電子工作の基板は「基盤」ではなく「基板」と書きます。

エッチングペンを使った基板製作

2021年あたりで作っていた基板製作の様子です。この頃は手書きでフットプリントと言いますか配線パターンを作っていました。紙を使い何度も書き直しながら配線を合理的にしていきます。設計した回路図は上からみた図なので、レジストペンで基板に書くときは反転させなければなりません。そのためトレーシングペーパーを使って反転させると便利です。

手書きで配線作成 エッチングペンで塗りつぶす エッチング後、ドリルで穴あけ

最初はなかなか大変な作業でした。しかし、何度か書き直しているうちにコツを得て、 合理的な配線の勘が働く ようになります。パズル感覚で慣れるとなかなか楽しいものです。いきなりCADを使って基板製作するのは敷居が高いでしょうから、まずはレジストペンで蛇目基板からはじめられることをおすすめします。

完成したバッファー回路

トナー転写で基板製作

最近(2023年)は、KiCadでフットプリントを作成できるようになりました。その様子をご紹介いたしますのでご覧ください。下図はKiCadのフットプリントの画面です。穴の大きさなどは自分でカスタマイズしてます。

バッファー回路のフットプリント

レーザープリンタの価格がグンと安くなり、身近になりました。基板に転写するだけならモノクロが安くておすすめです。私はブラザーのフルカラー(HL-L3230CDW)を使ってます。

レーザープリンタを持ってない頃、コンビニのレーザープリンタで転写をやったこともあります。

レーザープリンタのトナー印刷のインクは プラスチック粒子 の集まりです。 Aitendoさんで販売されている転写シート を使うことで、基板にインクを移してエッチングを行います。下の写真のようにアイロン(PTCヒーターで代用)で押しつけることで、インクを銅板へ転写します。

トナー印刷した回路 シートがズレないように固定 アイロンで押し付けて転写する

キレイに転写できなかった部分はレジストペンで補正すればOKです。実はレジストペンの代わりにサクラの油性ペンでも代用できます。

レジストペンで補正

あとはいつも通り腐食液に浸けてエッチングします。

エッチング中

アセトンでインクを除去

エッチング完了した基板に残っているインクは、アセトンを使うとキレイに除去できます。

以下、完成したバッファー回路基板です。ご覧の通り、キレイに仕上がりました。

バッファー回路基板

とてもクリーンなサウンドです。安定の5532といったところですね。

バッファー回路基板

今見返したときの反省点

当時としてはよく作れたと思いますが、今見るとPCBの配線は最適とは言えません。寄生容量をできるだけ発生させないように、信号線同士のスペースはもっと空けるべきでした。

また、IN、OUT、V、GNDのインターフェースを無理にまとめると、基板上の配線が詰まりやすくなります。音質を優先するなら、コネクタ配置の見た目や作りやすさよりも、信号の通り道を素直に短くできる配置を優先した方が良かったと思います。

積層セラミックコンデンサは優れている

大塚明先生の書籍でコンデンサについて解説されてますが、 セラミックコンデンサや積層セラミックコンデンサは、高周波特性に優れていて性能が良い そうです。エフェクタや音響機材では嫌われがちなイメージですが、大きさが小さく安価でエフェクターに最適なコンデンサです。 一方でフィルムコンデンサの見た目はカッコ良く、高級感があって音が良さそうに思えます。しかし 値段が高く、容量の割に大きいサイズになりがち なので結構使いづらかったりします。もちろん好みで選んでもらって構いません。これらのバッファー回路で聴き比べしてみました限りでは、この時点では私には音の違いが分かりませんでした(^_^;)

ただ、後になって BUFFER!! V2.0 の実験 を重ねるうちに、コンデンサ一つをとっても性能や音の印象に違いがあることが分かってきました。さらに BUFFER!! V3.2 では、両電源化してカップリングコンデンサ自体をなくす方向へ進みました。この記事の回路は、その試行錯誤の初期段階だったと言えます。

バッファーエフェクターの音質

本記事で紹介した5532のバッファーエフェクターを使って、ドアーズの「Winter Love」をベースで演奏した動画を以前公開していましたが、現在は視聴できなくなっています。

5532・4558・TL072など、オペアンプごとの音の違いを聴き比べたい方は、こちらの オペアンプの音質比較記事 をご覧ください。5532系の音の太さや、4558/TL072とのキャラクターの違いを比較しています。

録音方法は以下の通りです。

BASS(STEINBERGER)
  ↓
5532 Unbalance DI
  ↓
ZOOM H5
  ↓
GarageBand(Big Stack)

また後の検証で、はんだの種類でも音の印象が変わることが分かりました。同じバッファー回路を、はんだだけ変えて比較した記録は はんだの種類で音が変わる!?自作のバッファーエフェクターで比較検証 にまとめています。

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