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CRパッシブノイズフィルター「DESERT MOON」の開発

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Toshihiko Arai

はじめに

ギターやベースのノイズを軽減できるノイズフィルターを開発しました。とくに、ストラトキャスターやジャズベースなどのシングルコイルPUに効果的な機材です。その名も「DESERT MOON」!こちらなんと、無電源で動く機材になります!エレキギターだけでなく、アコースティックギターに搭載されたピエゾピックアップのノイズにお悩みの方にも需要のある逸品です♪

「DESERT MOON」の動画のご紹介

どのようにノイズが減少するかは、ぜひこれらの動画をご視聴ください。

▼ 初期バージョンの動画です

▼ 薄型に改良したV2.0の動画です

使い方

仕組みはCRローパス(ハイカット)フィルタでして、エフェクタを挟まず、ギター出力後の初段階で繋いでもらう形になります。ロータリースイッチによってコンデンサ(C)の値を切り替えることで、音に影響しないぎりぎりのラインを狙った高域ノイズの低減対策が実施できます。

「DESERT MOON」の回路図

この回路図中のHi-Cut Filterの枠線部分が、DESERT MOONのシステムになります。DESERT MOON のノイズ軽減方法は、実は CRローパスフィルタ(ハイカットフィルタ)によるものです。ただし、トーン回路などよりももっと高周波帯域を狙ったCRローパスフィルタです。DESERT MOON 初期バージョンでは、ロータリースイッチによってCの静電容量を470pFから0.01uFまで6段階で切り替え可能です。

以下は DESERT MOON バージョン2.0の回路図です。

初期バージョンと違って560pFのフィルムコンデンサを8個並列合成されます。コンデンサの並列接続による静電容量は、単純な足し算をすればよいので、DIPスイッチを操作することで、560pF〜4480pFまで静電容量を変化させることができます。

薄型コンパクト版!DESERT MOON V2.0の開発

その後、お客様のリクエストにより「DESERT MOON V2.0」を開発しました。

DESERT MOON の接続方法

お使いのエフェクターシステムの一番はじめに「DESERT MOON」を繋いでください。静電容量の値が大きいほどノイズは軽減できます。ノイズが軽減される同時に音質にも影響され、高域が篭りがちにもなります。よって、ノイズと音質の妥協点を見つけていただく形になります。私のストラト環境では、2200pF前後がノイズも軽減されて、音質への影響も少ないのかなと思いました。

V2.0ではフタを開けますと、内部に8個のスイッチが搭載されいます。ノイズ具合を確認しながらマイナスドライバーなどでスイッチをONにしてください。スイッチONの数が多いほどノイズは軽減されます。それと同時に、高音域も若干こもりがちになります。音質を確認しながらノイズ減少と高域の妥協点を見つけてスイッチを決定してください。

DESERT MOON V2.0 の特徴

エフェクタボードの裏側に貼り付けたいというご要望により、DESERT MOON V2.0 ではタカチのYM-65を使った 65mm x 50mm x 20mm の超コンパクトサイズで製作いたしました。エフェクトボードのスペースや、ペダルの裏側に潜り込ませることができるほど鬱型でコンパクトを実現しました!

▼ 以下の通り製作では、部品や音質面でもこだわってます! - 1kΩの抵抗は音質面で定評のあるbispaのLGMFSシリーズを使用してます。 - 音質の良いスペリオル社のSN100Cではんだ付けしてます。 - エッチングによる基板製作、ハンダメッキ

カットオフ周波数 (fc)

ここからは、DESERT MOON を実現する電子工学の話になります。少し専門的な話になりますので、ご興味ある方だけお読みください。

CRローパスフィルタのカットオフ周波数 (fc) は、次式で計算することができます。

\[ fc = \frac{1}{2πCR} \]

ただし、カットオフ周波数は、-3dB地点での周波数であることに注意してください。

Rの抵抗値を1kΩに固定して、Cのコンデンサの容量を変化させた時のカットオフ周波数をシミュレーションしてみました。

R(Ω) C(pF) fc(Hz)
1000 470 338k
1000 560 284k
1000 680 234k
1000 820 194k
1000 1000 159k
1000 1200 132k
1000 1500 106k
1000 1800 88k
1000 2200 72k
1000 3300 48k
1000 4700 33k
1000 10000 15k

例えばR=1k、C=1000pFでのカットオフ周波数は194kHzであり、可聴周波数帯域には影響しないように思われます。ですが、実際に回路を組んで実験してみますと、明らかに高域が落ちることがわかります。つまり可聴周波数帯域に影響するのです。

この原因が不思議で考えていたところピックアップのインピーダンスの影響が考えられました。一般的にギターやベースのピックアップのインピーダンスは数百キロΩと呼ばれています。

ピックアップのインピーダンス

以前に、Jazz bassのネックピックアップを測定したことがあります。その結果がこちらになります(シリーズ接続つまり、ハムバッキングでの測定の可能性がありますので、あくまでも参考程度になさってください)。

オシレーターとミリバルを使って、分圧抵抗によってインピーダンスを測定計算した結果です。

項目
入力電圧 Vpp = 1V
測定抵抗 10kΩ
測定日時 2023.5.12
気温/湿度 20.5℃ / 55%
周波数(Hz) 電圧 (V) インピーダンス(kΩ)
20 0.34 5.2
30 0.34 5.2
40 0.34 5.2
50 0.34 5.2
60 0.34 5.2
70 0.345 5.3
80 0.345 5.3
90 0.35 5.4
100 0.355 5.5
200 0.385 6.3
300 0.44 7.9
400 0.485 9.4
500 0.54 11.7
600 0.585 14.1
700 0.625 16.7
800 0.66 19.4
900 0.695 22.8
1000 0.72 25.7
2000 0.865 64.1
3000 0.92 115.0
4000 0.94 156.7
5000 0.955 212.2
6000 0.96 240.0
7000 0.965 275.7
8000 0.97 323.3
9000 0.975 390.0
10k 0.975 390.0
20k 0.965 275.7
30k 0.925 123.3
40k 0.88 73.3
50k 0.82 45.6
60k 0.76 31.7
70k 0.71 24.5
80k 0.65 18.6
90k 0.62 16.3
100k 0.58 13.8

10kHzあたりでピークを迎え、400kΩものハイインピーダンスになります。1kHzではぐんと下がり25kΩ、さらに100Hzでは5kΩ程度と低いです。可聴帯域周波数を20kHzまでとすると、3kHz〜20kHzの範囲ではインピーダンスが100kΩ以上であることが分かります。ちなみに3kHzというのは人間にとって聞き取りやすい周波数帯域であり、赤ちゃんの鳴き声がこの辺に当たるそうです。

カットオフ周波数の再計算

DESERT MOONの回路図を振り返ってみます。回路図から、ピックアップのインピーダンスもCRローパスフィルタの形成に影響すると考えることができます。

その場合、R_PUとRの直列合成値で再度計算してみることにします。3kHz〜20kHzの範囲ではインピーダンスが100kΩ以上であることから、仮に、100kΩで再計算してみました。次の表の結果になりました。

R(Ω) C(pF) fc(Hz)
100k 470 3.3k
100k 560 2.8k
100k 680 2.3k
100k 820 1.9k
100k 1000 1.6k
100k 1200 1.3k
100k 1500 1.1k
100k 1800 884
100k 2200 723
100k 3300 482
100k 4700 339
100k 10000 159

R=100kΩ、C=470pFの時でfc=3.3kHzというのは低すぎる気がします。なぜならトーンのようなこもった音色になりそうだからです。しかし、実際こもって聴こえるようになるのは、Cの値を4700pF以上にしたあたりです、ですから、インピーダンスの抵抗値をそのまま当てはめるのも何か違う気がします。確立した理論を形成できませんでしたが、ここまでが今のところの理屈になります。

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