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エフェクタやオーディオ、電子工作でよく使う線材(ワイヤー)の性能を測ってみた

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Toshihiko Arai

はじめに

手元にある線材の性能を測ってみました。電子工作をはじめ、自作エフェクタやオーディオ、ギターなどの配線でよく使われる線材が中心となります。メッキ単線だったり、絶縁皮膜のあるより線だったり種類は様々です。 私自身、どの線材を選ぶと「結果」が良くなるのか曖昧だったため、この機会に徹底的に調べてやろうと思った次第です。「結果」というのは、主に低周波での話です。音が太くなったり、音質が良くなったり、または無駄なエネルギーロスが少なくなったり。 そんな感じで思い立った企画でして感覚だけではなく、合理的な判断でも適材した線材を選びたいなぁと。 ご紹介する線材テストの測定値は、100Hz〜100kHzまでの試験結果です。低周波中心ですが、Arduinoやラズパイあたりで使う通信周波数(I2Cなど)でも参考になります。

※ この記事は新しい線材を使う度に随時追加予定です。

測定方法

線材の性能を測定する方法をお伝えします。

LCRメーター「DE-5000」を使用して、線材のRs、Ls、Csを周波数を変えてそれぞれ測定しました。sというのはシリーズ(直列)の意味です。周波数は100Hz、1kHz、10kHz、100kHzの4通りです。ご紹介する測定値は線材の長さ1m単位に換算した値です。つまり3mで測定した場合は、測定結果を単純に3で割ってます。

LCRメーターはあらかじめキャリブレーションしてます。測定の際は、できるだけ外部の影響のないよう、ノイズの少ない場所で線材を空中に浮かせて測定するようにしてます。

※DE-5000は秋月電子通商さんでも販売されてます。

AWG18

AWG18はギター内の回路配線に使われたりしますが、私の場合はエフェクタ制作でも使うことがあります。結構太めの線材なので細かな部分では苦労しますが。

BELDEN8501 (AWG18)

周波数 (Hz) Rs (mΩ/m) Ls (uH/m) Cs (uF)
100 10 1.00 O.L
1k 11 1.00 OL
10k 11 1.03 OL
100k 28 1.02 2.49
  • 購入店舗: TOMOCA
  • 値段: 250円/m
  • 導体: 錫メッキ銅撚線
  • 絶縁皮膜: PVC(ポリ塩化ビニル)

BELDEN8501(AWG18)のツイストペア

スピーカーケーブルやLANケーブルなどでよく採用されているツイストペアを、先ほどのBELDE8501を使って自作し測定してみました。ただし、1mの長さをツイストして信号を往復させた測定結果となります。ツイストケーブルとしての長さは50cmの測定値であることに注意してください。(1mの長さでは実測値の倍になる?)

周波数 (Hz) Rs (mΩ/m) Ls (uH/m) Cs (uF)
100 10 0.00 O.L
1k 11 0.30 OL
10k 11 0.31 OL
100k 8 0.31 8.22

インダクタンス成分(Ls)が圧倒的に減少しました。高周波における抵抗値も28mΩから8mΩへと改善されてます。ただし、ツイストペアはケーブル同士が近接しますので当然、浮遊容量のコンダクタンス成分(Cs)が増えてしまいます。ですから信号のインピーダンスを考慮して使用する必要がありそうです。

ハイインピーダンスな信号では、浮遊容量による高域の劣化の問題も考慮する必要がありそうですね。簡易的なノイズ対策としては有効でしょう。また、インダクタンス成分の減少は、同一信号における逆相の時だけ効果を発揮するはずなので注意が必要です。つまり、マイクのバランス回路のようなホットとコールドの関係でペアを組まなければなりません。

ツイストペアを巻く方向でなんと「音が変わる」との意見も聞きましたので今後に実験してみたいです♪

もちろんですが、ツイストペアの場合は線材を約2倍使うことになるので 同じ長さならば2倍のコスト がかかります。お財布と相談しながら、その部分に本当に必要かどうか検討しなければなりません。

Cloth Wire (AWG18)

プロミュージシャンの方から、線材やはんだ指定で制作依頼を受けたバッファーエフェクターに使ったワイヤーです。絶縁皮膜はコットンです。

周波数 (Hz) Rs (mΩ/m) Ls (uH/m) Cs (uF)
100 10 1.00 O.L
1k 10 1.00 OL
10k 11 0.94 OL
100k 24 0.92 2.76
  • 購入店舗: Mojotone
  • 値段: 237円/mくらい(2023年4月現在)

Cloth Wire(AWG18)のツイストペア

こちらもツイストペアにして測定してみました。 信号が通る距離は1mですが、ツイストペアとしてのケーブル長さは50cm程度の測定値であることにご注意ください。

周波数 (Hz) Rs (mΩ/m) Ls (uH/m) Cs (uF)
100 10 0.00 O.L
1k 11 0.20 OL
10k 11 0.26 OL.
100k 12 0.25 10.13

BELDEN8501の時と同様、ツイストペアにした方がインダクタンス成分(Ls)が抑えられていますね。しかも8501よりも小さい結果です。しかし、寄生容量のCsはBELDEN8501よりも大きくなってしまいました。ビニル皮膜よりコットンの方が比誘電率が低そうなのでCsの値が小さくなるかなと思ったのですが、予想外の結果でした。もしかしたら、コットン皮膜の方がツイストペアにした時に線材間の距離が近づきすぎるのかも?しれません。

PVC(ポリ塩化ビニル)の比誘電率は3.34.5、コットンの比誘電率は1.02.1らしいです。(「dielectric constant cotton」で検索調査)


AWG22

AWG22は扱いやすい太さの線材です。細かな配線では使いやすい太さです。 確かに扱いやすい太さの線材ですが、測定結果を見る限り100kHz以上の高周波に向いている感じがします。またコストパフォーマンス的にも優れてそうなので、人気があるのでしょうか。AWG18に慣れてしまってからはあまり使わなくなってしまいました。

BELDEN 8503(AWG22)

周波数 (Hz) Rs (mΩ/m) Ls (uH/m)
100 40 1.00
1k 44 1.20
10k 44 1.19
100k 10 1.19

BELDEN 8503はエフェクター製作で定番の線材です。一個上の8502と合わせて、初心者の方でも使いやすい線材ではないでしょうか。ただ、AWG18から比べると、抵抗値が高めです。

  • 購入店舗: TOMOCA
  • 値段: ???

パステルカラーのより線AWG22(秋月電子通商)

周波数 (Hz) Rs (mΩ/m) Ls (uH/m)
100 70 0.00
1k 74 1.20
10k 74 1.28
100k 14 1.28

線材に無頓着だった頃、よく使っていたワイヤーです。低周波の抵抗値はかなり高いですね。ArduinoなどのIoT機器で使う分には問題なさそうです。

  • 購入店舗: 秋月電子通商
  • 値段: ???

ALLPARTS Cloth Wire(AWG22)

周波数 (Hz) Rs (mΩ/m) Ls (uH/m)
100 40 0.00
1k 43 1.20
10k 43 1.28
100k 14 1.28

クロスワイヤーの魅力に気づいてサウンドハウスさんで購入してみました。特性はBELDEN 8503とほぼ同じですが、コットン被膜なので、混み合ったところの内部配線では浮遊容量を増やさずにすみそうです。また、ワイヤーストリッパーの必要なく、ツルッと剥けるところも便利ですね。お値段は少し高め。

  • 購入店舗: サウンドハウス
  • 値段: 500円/m

ドイツ製ワイヤーAWG22(桜屋電機)

秋葉原のラジオデパート2階にあります、桜屋電機さんで購入した線材です。「お勧め!」と書かれてますし、赤色の微妙な色合いがカッコいいなぁと思って以前から比較的使っていた線材でした。なので今回の測定でどんな結果がでるのかワクワクでした♪

周波数 (Hz) Rs (mΩ/m) Ls (uH/m)
100 45 1.00
1k 47 1.05
10k 46 1.08
100k 53 1.06

特性を見ると抵抗値が少し大きいかなと思ったのですが、どの周波数帯域でもほぼ同じ値なので、線材で色をつけないフラットなワイヤーと言えるのでは!?と思いました。

  • 購入店舗: 桜屋電機
  • 値段: 150円/m

Vintage Cloth Witer Replica 単線AWG22(桜屋電機)

こちらも桜屋電機さんで見かけた線材です。クロスワイヤーですが、単線なので扱いには注意が必要です。

周波数 (Hz) Rs (mΩ/m) Ls (uH/m) Cs (uF)
100 40 0.00 O.L
1k 50 1.10 OL
10k 49 1.22 OL.
100k 7 1.2 2.06

高周波数の特性が良い感じです。線材の細さと、より線でないことが起因する(表皮効果が少ない)のでしょうか?次に紹介するメッキ線と比較してみてもなかなか面白い結果です!

  • 購入店舗: 桜屋電機
  • 値段: ???

メッキ線、裸線

アムトランス金メッキOFC裸線0.9mm

周波数 (Hz) Rs (mΩ/m) Ls (uH/m)
100 10 0.00
1k 15 1.10
10k 15 1.08
100k 31 1.07

エフェクタ製作の依頼を受けて使いました。高額なだけあって特性は素晴らしいですね。

  • 購入店舗: アムトランス
  • 値段: 1390円/m

協和ハーモネット TCW/すずメッキ軟銅線1.0mm

周波数 (Hz) Rs (mΩ/m) Ls (uH/m)
100 10 1.00
1k 13 1.20
10k 13 1.20
100k 37 1.20

1.0mmはちょっと太いので、基板では使いにくいです。ただ、太いだけあって特性も良い感じです。基板上のジャンプワイヤーだと0.8mmがお勧めです。

  • 購入店舗: Amazon
  • 値段: 100円/m

ダイソー銅線0.9mm

周波数 (Hz) Rs (mΩ/m) Ls (uH/m)
100 20 1.00
1k 20 1.20
10k 20 1.25
100k 32 1.24

電気用途では使わないでくれと書かれてましたが、気になって購入してみました。0.9mmの太さですが、ちょっと抵抗値高いですね。銅でも不純物が混ざってるのでしょうね。わざわざOFCを選ぶのも納得しました。

  • 購入店舗: ダイソー
  • 値段: 20円/m

その他

その他の太さの線材も測定してみました。

HOZANアース線 VSF 1.25sq

周波数 (Hz) Rs (mΩ/m) Ls (uH/m)
100 10 0.50
1k 13 0.90
10k 13 0.93
100k 20 0.91

より線で柔らかく扱いやすいです。低周波での特性もよく、値段を考えてもかなりコスパの良い線材ではないでしょうか。アース線としてだけでなく、他の部分にも使ってみようかと思いました。

  • 購入店舗: Amazon
  • 値段: 100円/m

電源用ケーブル VFF 2020 直径2.0mm(AWG12~14)

写真なし。

周波数 (Hz) Rs (mΩ/m) Ls (uH/m)
100 0 1.00
1k 3 1.00
10k 3 1.03
100k 38 1.02

ホームセンターでよく売られている電源用のケーブルです。線材も太いだけあって抵抗値がとても低いですね。よく電源ケーブルをスピーカーケーブルとして使う方がいらっしゃいますが(私)、特性から見ても納得できます。

  • 購入店舗: VIVA Home
  • 値段: ???円/m

耐熱電子ワイヤー AWG24 秋月電子通商

周波数 (Hz) Rs (mΩ/m) Ls (uH/m)
100 90 1.00
1k 95 1.20
10k 94 1.20
100k 36 1.21

高周波用のケーブルです。IoT機器の製作でよく使ってます。高周波の場合、表皮効果があるためケーブルが太すぎるのは問題があるそうです。ですが、細すぎると今度は抵抗値が高くなります。そこで、リッツ線の登場です。リッツ線は単線の絶縁ワイヤーを撚って作られた線材で、高周波特性に優れているんだとか。なるほどと思いながら使ったことはないので、またいずれの機会。楽しみです♪

  • 購入店舗: 秋月電子通商
  • 値段: 32円/m

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